今後の住宅価格はどうなる?
住宅建築のプロがお話する
「納得できる家づくりのヒント」。
今回のテーマは『2022年からの住宅価格』です。
例えば大手住宅設備メーカーの
LIXILは2022年4月からの値上げを発表しています。
サッシで9%前後、
洗面化粧台で4~7%、
トイレで2~3%など
ほぼすべての住宅設備が値上がりします。
同じく大手住宅設備メーカーの
TOTOも2022年10月からの値上げを発表済。
ほかにも住宅建築に欠かせないプラスターボード、
合板、断熱材などたくさんの住宅資材が
2022年春以降に値上がりします。
木材や鉄筋など
すでに値上がりしているものと合わせると、
この2年ほどで住宅価格は
ずいぶん高くなったというのが実感です。
今回は、中島工務店の標準的な住宅を例に
2020年夏頃と2022年春以降の住宅価格を比較。
どんなものがどれくらい値上がりし、
住宅1棟ではいくら高くなるのかを確認しました。
結論からいうと、住宅1棟の価格は約7%UP。
2020年夏に3000万円(税別)で建てられた住宅が、
2022年4月以降には3200万円(税別)
必要になることになってしまいます。
□ 2022年に値上げ予定のおもな住宅資材
□ 2020年夏と2022年春以降の住宅価格の比較
□ 今後の値上げの見通し
1.住宅資材の値上がりの背景
2.2022年春までに値上がり済の住宅資材
3.2022年春以降値上がり予定の住宅資材
4.住宅1棟の建築費用の比較
~2022夏 vs 2022春以降~
5. できる対策と今後の見通し
冒頭で検証結果の結論をあきらかにした通り、
2020年夏と2022年春以降を比較すると
住宅価格は約7%アップとなります。
(中島工務店の場合)
政府のインフレ目標が年2%ですから、
2年で7%アップは
高騰といっていいレベルでしょう。
なぜ今これほどまでに
住宅資材が値上がりしているかというと、
きっかけは新型コロナウィルスです。
おもな背景は次の通りです。
①製品の供給不足
世界各国の生産拠点が新型コロナによる
ロックダウンで操業停止、生産が遅延し、
製品の供給が追い付かなくなりました。
需要に対して供給が不足すれば、
必然的に価格は上がります。
コロナを機に生産拠点の分散といった
対策が始まっていますが、
当面はロックダウンのたびに
ある程度の生産遅延は避けられないでしょう。
②物流コストの増加
コロナ初期の経済停滞で輸送が減少、
コンテナ生産も縮小されました。
その後の需要回復期に、他国に先駆けて
需要が回復した中国にコンテナが集中。
一方で経済回復が遅れたヨーロッパでは
空のコンテナが滞留。
(空っぽで動かすとお金が出ていくだけなので
動かせません)
世界的なコンテナ不足と輸送遅延が発生し、
物流コストが増加しました。
③燃料費の高騰
新型コロナワクチンの接種が進んだことにより
経済活動が再開、原油需要が高まりました。
ところが、産油国が増産しないため価格が高騰。
石油関連施設が多いアメリカ南部を
ハリケーンが直撃した影響もあり、
原油価格は高止まりしています。
これらの複合的な要因で、コロナ以後、
あらゆる業種で製造コスト・輸送コストが
高騰してしまいました。
とはいえ、長くデフレが続く日本では
各メーカーとも値上げせずに
耐えてきたところがあります。
今回はもはや耐えられず
値上げに踏み切ったといったところなので、
メーカーを責められるものでもないでしょう。
それでは具体的に何がどのくらい
値上がりしたのか見ていきましょう。
最初に2022年春までに
すでに価格が上がっている資材を確認します。
ここでは中島工務店の住宅を例にして検討します。
住宅の仕様は会社によって異なるため、
一概にあてはめられるものではありません。
特に大手ハウスメーカー、
ローコスト住宅メーカーは
仕入れ形態等も違うため、値上がり率や
住宅1棟の価格への影響も異なるはずです。
木造在来工法で無垢の木を活かした家を
建てる工務店の一例としてご覧ください。
なおすべての費用は、大工費用を除いて、
材工(製品の値段+設置費用)で検討しました。
①木材
構造材・造作材は2020年夏と比べて
約20%値上がり済。
2021年春のウッドショックにより
高騰した木材価格はその後も高止まりしています。
今回検証した中で金額的に
最も影響が大きかったのは木材です。
②鉄筋、板金類
鉄筋、板金類も2020年夏と比べて
約20%値上がり済。
こちらもコロナ禍からいち早く回復した中国に
原料である鉄鉱石が集中しているのが原因です。
高く買ってくれるところに
モノが動くのは当然ですから・・・。
鉄筋、板金類は、基礎工事に欠かせない鉄筋、
金属サイディングやガルバリウム鋼板などの
外壁材・屋根材、雨どいや破風などの板金巻きなど
様々なところで使われています。
とはいえ、瓦屋根の住宅なら
住宅1棟の建築費用のうち
鉄筋、板金類が占めるのは1%程度。
地味に痛手にはなっていますが、
大きな影響はないといえます。
③基礎工事
基礎工事費はすでに取り上げた鉄筋を除いても
約10%値上がり済です。
コンクリートの原料であるセメントや
骨材の値上がりに加えて、
物流コストアップが効いています。
住宅1棟の建築費用のうち
基礎工事費(鉄筋別)は6~7%程度を占めており
やや影響は大きいといえます。
④サッシ
2020年夏と比べて約10%値上がり済です。
住宅1棟の建築費用のうち
サッシの費用は5%程度なので、
こちらもやや影響は大きいといえます。
防火地域・準防火地域の場合は
さらに影響は大きくなります。
続いて2022年春以降に値上がり予定の
おもな住宅資材を確認しましょう。
公式に発表されているもののほか、
個別に打診を受けているものを含みます。
①住宅設備
住宅設備は2020年夏と比べて
約3%値上がり予定。
キッチン、ユニットバス、トイレなどの住宅設備は
こだわるお客様も多いので気になるところですね。
住宅1棟の建築費用のうち
住宅設備費用は約10%を占めるので、
3%とはいえ、影響はそれなりにあります。
②建材
建材は2020年夏と比べて
約10%値上がり予定。
建材にはプラスターボード、仕上げの板材、
防水シート、合板など現代の住宅建築に
欠かせないものが多く含まれます。
住宅1棟の建築費用のうち
住宅設備費用は約8%を占め、
これが10%値上がりするのは
木材価格高騰に次ぐ痛手です。
③木製建具・造作家具
木製建具・造作家具は2020年夏と比べて
約10%値上がり予定。
合板の値上がりの影響を受けた値上がりです。
木製建具・造作家具は中島工務店の特徴ですが、
あまり採用しない住宅会社の方が多いでしょう。
その場合は建材を使っているので、
建材の値上がりの影響を受けます。
中島工務店の場合、住宅1棟の建築費用のうち
木製建具・造作家具の費用は約5%を占め、
10%アップはやはり影響は大きめです。
④電設資材(電気工事)
電設資材も2020年夏と比べて
約10%値上がり予定です。
電設資材とは電線などの電気まわりの資材です。
これもないと困りますよね。
住宅1棟の建築費用のうち
電設資材の費用は約5%を占め、
10%アップはやはり影響は大きめです。
⑤断熱材
断熱材も2020年夏と比べて
約10%値上がり予定。
住宅1棟の建築費用のうち断熱材の費用は約4%、
これが10%値上がりすると
影響はそれなりといったところです。
とはいえ、断熱等級5~7が新設されて
いっそう断熱基準が高くなると
影響はさらに大きくなっていくでしょう。
⑥瓦屋根
瓦屋根も2020年夏と比べて
約10%値上がり予定。
住宅1棟の建築費用のうち断熱材の費用は約3%。
とはいえ10%値上がりすると
影響はそれなりにあります。
なお、瓦屋根は2022年1月に
ガイドライン工法が改定されました。
ガイドライン工法は国土交通省が
標準設計・施工の方法として示しているもので、
今回の改定で瓦1枚1枚をねじ等で
緊結することが義務付けられました。
中島工務店は従来から
1枚1枚ビス留めしていたので
今回の改定の影響は受けませんが、
そうではなかった住宅会社は
かなり施工手間が増えるため、
価格にも反映されるものと思われます。
⑦内装壁仕上げ材(クロス)
2020年夏と比べて約20%値上がり予定です。
左官(塗り壁)は今のところ
値上がり予定はありません。
中島工務店の場合は左官壁が多いのですが、
仮にほとんどの壁をクロスにしたと想定すると
住宅1棟の建築費用のうち、
断熱材の費用は約3%となります。
それなりの影響はありそうです。
それでは、住宅1棟の建築費用が
総額でどのくらい変わるのか確認しましょう。
ここまでにご紹介した
値上がり済・値上がり予定の割合(%)と
それぞれの資材が建築費用に占める割合を考慮し、
住宅1棟の建築費用がどうなるのかを算出すると
2020年夏に3000万円(税別)で建てられた住宅が
2022年春以降に建てるには3200万円(税別)必要
になります。
これが約7%の値上がりの根拠です。
実際にはこれに消費税もかかるので、
支払い額としては220万円アップとなります。
220万円というと結構な負担増です。
何かできることはないのでしょうか。
この値上がりに対してお客様側にできることは、
残念ながらあまりありません。
まず、間に合う人は値上がり前に
工事請負契約を結びましょう。
契約後にはよほどの事態がない限り、
契約金額が変わることはありません。
多くの製品が値上がり予定の
2022年4月1日より前の金額で契約すれば、
ある程度費用を抑えられるでしょう。
2022年春以降に単純に支払う金額を抑えるなら
面積を小さくする、住宅設備のグレードを落とす
といった方法があります。
これは建てる家の仕様を変更する方法なので
広さや住宅設備にこだわりがある人には
取り入れにくい方法かもしれません。
とはいえ、かけられるお金には限界がありますから
もともとローンを限界まで予定している場合などは
こうせざるを得ないことも考えられます。
今後の見通しとしては、
住宅の建築費用は上がることはあっても
下がることはないといえます。
最初にコロナ禍の影響として説明した通り、
あらゆる資材・製品の原料や
物流コストは世界情勢の中で決まっています。
これはもはや逃れられるものではなく、
今後も世界の経済成長に伴って
あらゆるコストが上がっていくでしょう。
さらに国内経済に目を向けると、
金利が上昇傾向にあります。
まだまだ低金利は続くと考えられますが、
住宅ローン金利も徐々に上がる可能性はあります。
住宅ローンは長期にわたるので
金利が0.1%アップでも影響は小さくありません。
一方で、期待できる要素があるとしたら
給料アップです。
住宅建築費用が7%上がったとしても
同じだけ給料が上がれば問題ないわけですから。
家を建てるタイミングに正解はありません。
が、住宅建築費用は上がっているという
前提のもとに「いつ建てるか」を考えましょう。